5月にはインプロの「メッカ」、シカゴのThe Second Cityでめくるめく即興のやりとりを、ぽかんと口を開けて見た。
そして先日は、ワークショップ生の特権として、その母体であるThe Brody Theater でのショー、時事ネタを即興劇にするPOP!を無料で見た。
週末の夜、10時開演。
少々、わたしには夜更かしだったが、徒歩圏、時事ネタ、無料、三拍子そろったのに誘われた。
小さな劇場で、30人ほどの観客。
入場料はシカゴでの半額程度、8ドル。
バーがついていて、飲み物を注文して適当な席に座る。
異性同士、同性同士のカップル、女友達、インプロ研究生風、同業者っぽい人などがいる。
10時。
張りのある声の50代(?)の男性、リーダー格の人が挨拶。
続いて4人が舞台に出て来た。
20~30代の、体型的キャラ的にかなりばらばらの人たちだ。
この日のインプロヴィザーはこんな感じの人たちだった。
1. 大柄中肉の中年男性
2. かなり小柄でやせ形の若い男性
3. 小柄でお腹が張り出した中年に近い男性
4. すらっとしてスタイリッシュな若い男性
5. 大柄でブロンド短髪、スカート姿の若い女性
この時点で、このでこぼこ5人組、すでに面白そう…。
[学べること]
・体型や雰囲気の違いは観客を引き付けるひとつのツールになる。
背が高すぎたり低すぎたり、身体が太かったり細かったりという人たち、若者のなかの年配や、年配のなかの若者が、よく目立ってプラスになる。
最初にリーダー格が、観客に時事ネタのお題を求めた。
客席から、「トランプが副大統領候補に指名したMike Pence!」の声と、続く大勢の拍手で、決まり。
「Mike Penceの情報を挙げて下さい」とリーダー。
観客は、「女性関係」「インディアナ州元知事」など活発に発言。それぞれに「いいね、そうしたら…」と、もちろん「Yes, and」で受答え、インプロの真骨頂だ。
「じゃ、これらの情報を使ってやります」と、即興劇の始まり始まり。
トランプ大統領候補のいいそうなこと、副大統領候補とのありそうな(?)会話、トランプさんの笑えるツイッター、想像上のペンスの「母」なども登場させていく。
状況がどんどん作られ、あっという間に別の登場者に代わったり、別の場面に切り替わる。
[学べること]
・いつ自分が他の登場者に代わって、状況を変える「ツッコミ」をするのか。
そのタイミングの測り方とつっこむときの緊張感は、リードアラウド指導と似ている。
・つっこまれた方は、それまでしていた会話を即座に、新状況に合わせなければならない、というところも似ている。
5人、見事なチームプレーだ。
ちょっとはずれたな、くどいな、と思える瞬間に、仲間が入る。
かなりリーダー格が飛び込み、場面や会話を生き返らせた。
リーダーが救った、とわたしのようなほぼ素人にわかるのは、他の出演者がまだ年季が足りないということなのかもしれない。
だが観客には、おかげでいい緊張感が続く舞台となり、大変よろこばしい。
[学べること]
・リードアラウドをしにきた子どものために、一番大切なのは彼らを退屈させないこと。
指導者チーム内の協同が計画したようにバランスよくいかなくても、それは内部のことで、より上等を求める次の段階。第一段階では、外部、つまりショー(指導)を面白かったと思ってもらうようにすること。
状況を変えた瞬間のエッジが鋭いときに、より笑いが誘われるのが見て取れた。
割って入った新登場者のキャラが立っていることや、
示される状況が手に取って見える身体の動きとか、
会話の内容自体の的確さなど、エッジが立っているのはさすが。
[学べること]
・リードアラウド研修生にありがちなのが、もあーっとした進行だ。
発問や、子どもの発言への応対に、エッジが効いていないこともしばしば。
いいことを言っていても、発声が不明瞭で聞こえなかったり、おずおずしていたり、自信がなさそうだったり、思い切りが悪い。
照れないこと。
ひとつの題で30分弱、即興劇が続く。
そのなかで、数分ごとに登場者、状況、場面が変わるが、何度か「デジャブー感」(いつか見たぞ?感)がわき、それでまた笑える。
一度演じた登場者や、状況をもう一度わざと持ち出すのだ。
一度目でしっかり印象づけて、面白がらせてあるので、観客はそれが再び形をちょっと変えて出てくると、大ウケだ。
[学べること]
・繰り返しの面白さ、よく研修生が言う「しつっこさ」の妙である。
相手が幼いほどウケる。
大人を相手にしているときは、いい加減にしないと飽きられたり侮蔑さえされてしまう、毒を含んだ芸だが、これがないと盛り上がらない。
ワークショップでも気づいたが、インプロのひとつの特徴は、チームに協同精神を育むということ。
だれかが突出して目立つとか指導力を示すという方向性はない。
「リーダー」と仮に呼んだが、その人がリードしているのではなく、「サイドコーチング」しているとインプロの世界では言う。
調整役とでもいうのかもしれない。
彼らの舞台を見ていて、過剰な自意識のようなものはまったく感じない。
誰かが場面や会話をつまらない方向に向けそうなときに、「そんなのダメだよ」という態度は感じない。
「そうきたか」とか「それもありだね」という態度で受けて、次に発展させる。
この日の舞台に立った5人も、チームとして「Yes, and」の精神なのに納得。