大島英美のポートランドだより ナイキのアートディレクターは日本人の新しい才能に注目している

ポートランドで『Maniac Magee(by Jerry Spinelli)』 を読んだ。
仕事とはいえ、いい本に出会うとやっぱり幸せを感じる。Newberry Award をとっているからいい本なのではなく、よく出来た本なので賞をとった本だ。

“Tall Tales”というのは、アメリカの伝承物語のひとつのパターンである。カウボーイたちが焚火を前に伝え合ってきたようなほら話のこと。この『Maniac Magee』は、その”Tale Tales”に形を借りた、現代のアメリカのTale tale。主人公はホームレスの少年。孤児でいつも走っている。そしていろいろな偉業、離れ業をある町でする。こんがらがって誰もほどけなかった結び目をあっという間にほどいたりした。いちばんの偉業は、黒人と白人それぞれの共同体を融合させたこと。アメリカでこんなアメリカの物語を読んでいて外を歩くと、きょろきょろ観察で忙しい。

ここポートランドは、他のアメリカの都市に比べて驚くほど黒人が少ない。いわゆる「白人」が人口比率の70%後半を占めるとても均一的、そして伝統的にリベラルな街として知られてきた。ここ10年、移民(特にヒスパニック系とアジア系)の数が増え、その均一性が変わって来ている。
今や diversity(多様性)が、市の政治やコミュニティのキーワードになっている。どう受け入れていくかが、ここのチャレンジだと識者たちは口をそろえる。

数年前までロシア系のタクシー運転手が多かったが、今回何度か乗ったところでは、アフリカからの黒人と、リタイアした年輩の白人が増えた感じがする。レストランや屋台は、タイ・ベトナム料理が増えて定着している。

『Maniac Magee』はスニーカーを履いて走り回っているが、そんなジョギング・シューズを作ったナイキはポートランドを代表する会社だ。「最初のジョギング・シューズを作った人を知っているよ(=ナイキの創業者)」という人に会ったこともある。

そのナイキのアートディレクターは、この街で新しい才能を捜してギャラリーなど気軽にやってくる。先日、ある日本人の展覧会でインタヴューをした。「日本人の新しい才能に注目している」とのこと。西洋を日本風に融合させたポップ・カルチャーが面白いらしい。「日本らしい」というと、それは今や「マンガ」「ガーリー(girly)」などを意味する時代になった。

Jerry Spinelli Collection

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