歌舞伎、特に片岡仁左衛門さんが好きだ。
「一世一代の」と名打った、演じ納めの演目ということで、千秋楽に足を運んだ。
衣装の香まで漂ってくるかぶりつきの席。
仁左衛門が、悪人二人の一人二役。
ほとんど出突っ張りで演じる。
通る声、そして時に詠う台詞。
歌を聴いているがごとく心地よい。
高低自在にPitchが滑らかに変化する。
滑舌よく、緩急も変わる。間合いも絶妙。
町人の悪人と、武家のボンボン悪人で、同じ悪人でももちろん口調も文体も違うが、発声をはっきり変えていて、見事に別人だ。
見事な上、すぐそこに仁左衛門さんがまるで私に repeat after meと言っているかのごとく立っていて、シャドウイングでもしたくなって困った。
また、しなやかな、先端まで神経の入った手足の動き。
裸足だから、足の指から演技に入っているのが見える。
つま先歩き、ドタドタ歩き、舞うようなすり足。「足技」も多彩。
ここまで見えたこの日、
これぞ「人間国宝」の演技と、改めて圧倒された。
そして感動的な幕が下りてからの、拍手の嵐だ。
鳴り止まない拍手に、もう一度幕が開き、役のままのたたづまいで舞台中央に座り、客を拝みお辞儀をする姿に、芸や舞台への仁左衛門の謙虚な姿勢を見た。
仁左衛門がこの役を演じ収めるにあたって、インタビューで答えている。
特に響いてきた言葉を拾ってみる。
とにかく、お客様に楽しんでいただかないといけない。そのため、観ていて楽しいと思ってもらえるよう工夫を重ねてきました。
役づくりの工夫について:2役を演じ分けるのが眼目です。台本をよく読んでその人物になりきって演じていると、自然に体がそうなっていく、という感じでしょうか。
役はつくるのではなく、自然と出てくるもの。若いときは違ったかもしれないけど、いつ頃からかそうなってきました。
台本を読むたびに新しい発見がある。
25日間、そつなく舞台を勤めるだけならまだまだできますけど、その日来てくださったお客様に、自分として恥ずかしくない舞台をと思うと、これを最後にしようという気持ちになった。
ひと口に市井の悪人といっても、それぞれタイプが違う。そこが演じていて面白い。
劇場が広いので、そのぶん考えてやらないと。声も4階の一幕見席まで届かないといけない。相当な距離がありますから。
リードアラウドは、(もちろん足元にも及ばないが)歌舞伎にも、ちょっぴり影響を受けている。