子どもって:「べろ出しチョンマ」と「フクロウの館」

「こんなに、すいていていいのか」と心配なほど静かな、渋谷の新ビルの食料品売り場。
シーンとした野菜売り場に、小学3年生くらいの女の子ひとり。
鏡になっている店の什器の前を、ちょろちょろ、行ったり来たり。

好奇心いっぱいのわたしが横目で見ると、鏡に写っているその子は、あっかんべーをしている。
舌の上には黒いキクラゲ。
試食品で売り場にあったキクラゲの酢の物らしい。

「黒いベロの、あっかんべーにしようとしてるの?」
とわたし。
外で知らない人に、あまり話しかけられる事のない日本の子だ。
一瞬、はっとしたが、
「うん、なかなかコレ、乗んないの」
と言うと、舌の上にもう一度ちゃんと黒いキクラゲを乗せて、べろ出しチョンマみたいに「べー」をしてくれた。

これです、これです、子どもって。
やろうとすることが、面白い。
「遊び心」とでも言うのか、ふざけた発想を自由に出させつつ、それと「教育的」なこととを大人の知恵で結びつけて、教養的骨格を作ってあげたい。
これが、わたしがやっているリードアラウドの根っこの精神かな。

この日の午後は、リードアラウド指導研修生2名とともにいつもの公立小学校に行った。
1,2年生は、リードアラウド入門の定番、Yo! Yes?

蒸すような教室に入ると、そんなこと意に介さない小学生がわたしたちに、大きな声で「Yo!」。
先生に「yo!」は、ちょっと慣れ慣れしいけれど、わたしたちも「Yes?」

すると、あちこちから「Yo!」「Yo!」「Yo!」。
教室はちょっと騒然と。
ああ、これは大変いい兆しなのだ。
嬉しくなる。
先週から始めたこの『Yo! Yes?』が、印象的だったということ。
生徒のやる気の証明、と言ってもいい。

「この場面、読みたい人?」
この日は、ばんばん手が挙がる。
あたらなかった子から、「あーあ」と失望の声。

Yo! Yes? は、全編ふたりの男子の問答で成り立っている。
このふたりの会話を、指導者のデモンストレーション朗読で、まず内容を解釈させる。
たいていスルリと理解するので、すぐに生徒ふたりづつに読ませて行く。

「What’s up?」
「Not much」
と言ったミニマムな会話だから、英語が初めての子にも敷居が低い。
また、ちょっとやっている子も、紋切り型の「英会話」ではないので新鮮で、初めての子とほぼ同じスタートラインに立てる。
そんなことで、挙手が多いのだろう。
あ、それと、もう1点。
指導者のデモンストレーションが、どれだけ面白いかにもよる。
子どもたちに恥ずかしさを忘れさせてくれる程、指導者が「恥ずかし気」がないと効果が大きいものだ。

「Who?」
と言う場面、30人くらい生徒がいると、だれかが「who, who, who」とよけいな事を言い出す。
すると、クラスがあっと言う間に、「フクロウの館」になってしまう。
「フー、フー、フー」
約30羽のフクロウの館。

ま、いいか。
子どもらしいって、こういうことだろう。
発音もwhoooとwhoの違いだけだし。
だが、「who=だれ?」 という教育的なことも、吹き込むことをわたしたちは忘れない。

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