(その1からの続き)
スクールの指導は、第二言語習得学(SLA)からの知見をできるだけ取り入れるようにした。
SLAでは、第二言語をより効果的に習得するには、語彙の習得をできる限り効果的にしなければならない、
といわれている。
そこで、スクール生の語彙学習も、ギアをあげなければと、意識し始めたのが4年ほど前。
「語彙は、本のなかで学ぶのがよい」「単語の意味は、文脈で捉えながら覚えるべき」というSLAの知見は、自分のこれまでの経験に照らしてももっともと思え、リードアラウドでの英語指導を始めるきっかけのひとつでもあった。
ただ、英語圏に住んでいないと、英語の密度がまったく違う。
日本で昨今、小学校でも英語が始まり、小学5、6年生なら教科のひとつになったといっても、週に45分程度の二回授業で、1クラス40人近い生徒が一緒に学ぶ授業であるし、「本を読む」というレベルまで指導することはなく、教える語彙は非常に限定的だ。
英語塾に行く手もある。
たとえばわがスクールの授業は、絵本を自分で読んで楽しませる小クラスのユニークなものだが、1ヶ月に約3回、1回が60-70分程度のものでしかない。
語彙の習得に限っていうなら、1ヶ月で絵本を1冊読むか読まないかのペースで、そのなかで語彙を学ぶだけでは、ゼロではないが、英語圏の子どもと比したら、まったく勝負にならない。
日本にいて、その年齢なりの「充分な英語語彙」を身につけるのはかなり難しい。
ところで、アメリカでは、世の中で一通り使われている英語の約95パーセントは、6,000語の「よく使われる英語」で成りたっているという。
そして仮に、英語学習者がその6,000語を、ただひたすら本を読むことで身につけて行くと、30余年かかるという報告もある。
どうにかしたい。
○『I Spy』
そこでまず、ときどきカリキュラムに入れていて、子どもたちの「食いつき」がいい、『I Spy』シリーズを定番化した。必ず、1年に1冊は一緒に「読破」していく。
本書では、いろいろなテーマに絞った「セット」が設けられ、そのセットを詳細な写真が映し出す。
読者は各セットの写真を隅々まで見ながら、本文に書かれている「なぞなぞ」文を読み、答えに当たる「もの」を「ミッケ」していく。
「ミッケ」するのは「もの」なので、名詞の語彙だが、普通の絵本に登場する名詞の数とは比べ物にならないほど多い。
そのひとつひとつを英語で言ったり、読んだりしていくことで、かなりの語彙を学べる。
語彙が増えて行く手応えを感じる学習だった。
だがしかし。
語彙は名詞だけではない。
それに、いくら「探し出す」という遊びが入って楽しめるからと、語彙の定着は100パーセントとはならない。
記憶に定着する語彙は、まだまだ限られていた。
○「Word Ball」
そして、記憶を少しでも定着させようと始めたのが、シアターゲームの定番でもある、Word Ball。
シアターゲームとしてやる場合とちょっと形を変えて、スクールでは、レッスンごとに「word リスト」を作り、それを張り出す。
プレーヤーは、ボールを相手に向けて投げると同時に、そのリストからひとつ単語を選んで言う。
相手を定めてその相手を見て(コミュニケーションの基本)、
ボールを投げ(運動)、
同時に大きな声で単語をひとつ投げかける(スピーキングリハーサル、自分の声と発音のモニタリング)。
受け取り相手となったもうひとりのプレーヤーは、ボールと単語を受け取り、今度は自分が同じことを次のプレーヤーにする。
これを繰り返す。
「遊び」として、子どもは飽きずに継続してくれるものだ。それまで復唱させたところで飽きてしまっていたのに、この方法だと、夢中になって単語を大声で言ってくれる。
その結果、絵本のリードアラウドで引っかかる言葉も少なく、流暢さも改善されるようになった。
そしてもうひとつ発見だったのは、大人にもこのWord Ballが効果的だということ。
特に、声をはっきり出す練習になるので、よく取り入れている。
さて、このふたつをレッスンに組み込み、それなりに語彙も増えたようだし、語彙以外の効果もあがったと思った。
ところが、
アセスメントの語彙力ポイントが、それほど伸びない。
そして第三弾、ついに語彙のワークブックと時々の単語クイズをを組み入れた……。
(その3につづく)