土砂を見ると……

土砂崩れに飲まれるかと、覚悟したことがある。

TVで東北の太平洋沿岸を襲った津波などの映像を見ると、ドキドキして、息も速くなって正視できない。

わたしの経験した恐怖は、ネパールのカトマンズからポカラという村に向う時のこと、もうほぼ35年も前のことになる。
モンスーンの季節で、山道は路肩は崩れるし、所々すでに土砂崩れで通行止め。
それでも定期バスは、土砂崩れの手前まで乗客を運んでくれる。
そして、「この土砂の向こうに、先に出発したバスが次の土砂崩れで通行止めのところまで走っているから」と(ネパール語で)、なんだか能天気な感じで言われた(と思った)。

そのバスに乗っていて道連れになった外国人バックパッカーたちは、現地の人と一緒に裾をまくり裸足になった。
そして、まだ崩れてきて日が浅そうなニュルニュルの土砂に足をつけ、誰となくみんなで腕を取り合い、土砂に足をすくわれないように、崩れた土砂の山を渡った。

次のバスを目指して歩いていると、誰かが「シッー!」。
はっとして耳を澄ますと、「ゴーンゴーンゴーン」という地鳴り?
それが、だんだん近づく。
「ど、土砂崩れだ!」
誰かが叫んだ。

みんなで、道の最内側、山側に体を張り付け、それぞれの神や、仏に祈った。
幸い、乾いた泥や岩や石がザザーと、わたしたちを避けるように放物線を描いて降って、最後に大岩がゴッロンと落ちてきて終わり。
大岩が弾むように砕けながら落ちてきて、目の前で粉々に割れたのが恐怖だった。
でもほとんどが、崖からさらに下の川まで落ちて行ってくれた。

後から考えれば、これは命拾いした瞬間だった。
この時の恐怖が、まだ体に染み付いているのを、最近知った。

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