リードアラウドを始めた当初は、対象は小学生低学年程度までと思っていた。実際、その要望が多くそれに合わせた指導をしていた。換言すれば、絵本リードアラウドは「英語の入り口」、という認識でいた。
それから約20年、
日本の英語教育も変わり、わたしもここ数年で考えが少しずつ変わり、この頃は、それをもっと広いと確信に近く思っている。つまり、リードアラウドは「本格的な英語読解への橋渡し」になる。
ということで、
今回は「英語経験3年以上」の小学生中学年以上から高校生までを対象とするリードアラウド、その指導と指導者の朗読力を磨くことをテーマとした。
課題書は『The Runaway Bunny』、
英語の難易度は700L(L:レクサイル指数。ハリーポッターが800L程度、David シリーズが150L前後)。
英語圏の大人が子どもに読んであげることを前提にした本なので、意外とレクサイルが高く、読んだ感じも洗練されている。
使われている構文や語彙が洗練されているのに加えて、内容も実はデリケートな心の動きが描かれている。
これを指導しようとするもの、朗読で表現しようとするものには、必然的に「深読み」が求められる。
今回も参加したみなさんは、ベテランの域に入る指導者だ。
当然のごとく、読めばすでに英語圏アマチュアレベルのfluencyはクリアしているし、文の理解はなんの問題もない。
その上、朗読のプロの第一歩、キャラクター造型も、ナレーターと子ウサギと母ウサギ、この3者の声がちゃんと別々に聞こえるところまで出来上がっての参加だった。
レッスンは、ここからだった。
母から逃げると宣言した子ウサギが、
どこまでも追うと宣言した母ウサギに、幼いなりに考えた逃亡の策を挙げていく。
「これでもか!」と、
つぎつぎ秘策を挙げるが、そのたびに母が、これまた「これでどうだ!」と知恵のある追跡方法を言う。
こんな状況で、子どもの心情はどんなものか?母のリアクションにどう動くか?
ひとつひとつ、違うだろう。
特に母の気持ちは、どう変化するだろう。
掌中の珠と思い、いつもいっしょだった子に、急に「あなたから逃げる」と言われるのだ。
始めは「かわいらしい」と余裕があった母も、子どもがエスカレートしていくうちに心が揺れるのではないだろうか。
こう、細かくひとつひとつの場面での気持ちを考えていくこと。そこから表現の深みが出る。
予習で自分なりに仕上げてきたみなさんの朗読は、一般から言ったら、かなりの仕上がりだが、プロとしては、まだまだ子と母の感情がワンパターンまたは類型的だった。
さあ、わたしの出番。
各場面ごとに小分けにしてディスカッション。
感情を細かく読み取り、表現の「解像度」を上げる作業を手助けする。
その過程でみなさんが「意外だ」という顔をしたのが、「サーカスにはいっちゃうからね」の場面の解釈。
このサーカス、まさかシルクドソレイユみたいな近代的なサーカスではないだろう。1940年代の人たちが思うサーカスだ。
「河原乞食」のように扱われることもあるような、裏社会的な存在だったろう。
そんな当時のサーカスに、子どもが入団するなんて!
とんでもないこと。良家の子女には考えられないことで、親には大ショックなことと子も知っているのだ。
切り札のつもりだろう。
母にはかなりの動揺もあったのではないか。
深読みが、ぞくぞく楽しくなってくる。
絵本といえども、なんと深い!
こんな、絵本の深読みの楽しさ、
そして深く表現する苦労の楽しさが、共有できたと感じた時間だった。
またまた、みなさん、どうもありがとうございました!