高齢者施設でのリードアラウド~認知症のEさん参加

もう4年以上続いている高齢者施設でのリードアラウド。

当初は、10数人で始めたが、認知症が進んだ人もいて、結果的に「続けたい」と手を挙げたシャープな女性3人でのクラスになった。

そして4年以上の歳月が流れた。
しかし、驚異的なことに、平均年齢90歳余の3人が、同じペースで、ずっと変わらず続けていらっしゃる。

当たり前のように感じそうだが、こんな機会は、そうめったにあることではないだろう。
ほんとうに素晴らしい。

Hush!: A Thai Lullaby

レッスンが先日あった。
そこに、ハプニングが…。

第4の女性、Eさんが「一緒にやってみる」と急に参加することになったのだ。

他の記憶力抜群の3人(平均年齢90歳プラス)と違って、Eさん(85歳)は「中程度」のアルツハイマー型認知症。
症状は安定しているが、ときどき記憶に混濁がある。

「途中退席あり」とEさんの確認もとり、ヒヤヒヤしながら、4人でのレッスンを開始した…。

さて、改めてこのリードアラウドの参加者のプロフィールを紹介しよう。

Hさんは、女子英語教育で名高い大学で英語を学んだ、元英字新聞の記者。
戦後すぐに海外各地をまわったキャリアウーマンだった。
すたすた歩いてどこへでも出かける活発な人だ。

入れ歯の関係もあって発音が苦手なのと、目の関係で、本の字が小さかったり行が詰まっていると、読み辛いときがあるが、あとは実力者。
みんなの出席や「宿題」を確認したり、頼りになる「級長」だ。

Kさんは、もと奥様で、その前は女学校で英語を学んだ才媛。
みんながうらやむ白磁のような、美しい肌の持ち主だ。
一時、誤嚥性肺炎になって、しばらく酸素マスクをつけていたが、この春からは、肺活量は少なめとのことだが、再び自己呼吸に。
電子辞書で、いつも予習を欠かさない秀才。

Aさんは、一番のお姉さんで「鬼畜米英」時代突入直前に名門女子大の英文科を優等で卒業。戦争中も英語を習う名家の方々の家庭教師をした。戦後はカナダ領事館勤務。奥様になってからは、世界各地をまわった。
その語彙力と読解力、文法力は、もう驚異的。辞書なしでほとんどOK。
生き字引、自動翻訳マシーンと、わたしは呼んでいる。

そこに、Eさん。元医師だ。
「英語排斥時代に女学校だったから、英語は苦手」「医学専門大学ではドイツ語だった」と、英語のニガ手意識が強いが、「勉強はできた」という女医然とした雰囲気。

こんな、そうそうたる「4人娘」が、わたしの生徒さん。
まったくヘタなことは言えない。

この日のレッスン、いやまあ、驚いた。
Eさんが通しで参加できたのだ!
おまけに、楽しそうだった。
絵本をみんなで声に出して読むと、その韻律に、ころころ何度も笑った。

リードアラウドのできることが、ここにもあった。
リードアラウドを続ける意味をまた見つけたようで、勇気づけられる。

さて、使用絵本は『Hush!』という、タイの母子の本。
いろいろな動物が音や声を立てるのを、母が「坊やが眠れないから、あっちに行って!」と追い払う。

動物とその鳴き声がいろいろ変わるが、母の台詞はほとんど繰り返し。
語呂がよく、声に出して呼むと気持ちがいい。

Eさん以外の3人も、本書を面白がっていたのだが、普段、気難しいEさんが、おまけに初体験の英語絵本で、こんなに喜ぶのを見て、目を見張っていた。

Eさん、リードアラウドの約束通り、読んでいる文字を指で指して一生懸命読んでいた。
繰り返す文が、声を大きくして読む勇気をつけさせているようだった。

ときに、「ここの意味は?」と質問もする。
その質問には、「自動翻訳マシーン」ことAさんが、立て板に水のように訳すとAさんに感心しながら、「ああ、そういうこと!面白いねえ、この本」と、満足そうだ。
認知症が信じられないほど。

みんなで対話を楽しみ、音読で音を楽しみ、深い息をして、感情を考えながら声にだして英語絵本を読む、リードアラウド。

約90歳になっても、楽しんでもらえるようだ。

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