FAQ「幼児に第二言語(英語)を教えると悪影響がある?」

まだ母語もおぼつかない子に、第二の言語を教えたりしたら、何か悪い影響があるのではないだろうか、という疑問を抱くひとは少なくない。

言語習得学の研究者(Patricia Kuhlなど)の研究報告など、いろいろ科学的な報告がある。

これらは「科学的」にするため、条件を限っての結果で、「定説」や「一般論」にはなっていないから、わたしたちは迷うわけだ。

わたし自身の経験(日本語が母語ではない祖父母と6歳まで同居、バイリンガル子育て、米国在住の日本人子弟教育、インター校生徒指導など)と、第二言語習得論についての少々の知見で、いま思うのは、

日本に住み、日本語をきちんと使う家族がいれば、幼児に第二言語(英語)を教えて悪影響はないだろう、ということだ。

Patricia Kuhlらの、有名な研究のひとつがこれ。
生後9ヶ月の英語を母語とする子に、北京語を1回25分4週間に渡り12回、計5時間聞かせた。
結果は、「母語に悪影響なし」。
両言語を学べる幼児の脳の、驚異的な柔軟性を示した実験だった。

これら一連の言語習得の研究では、充分に母語を聞く時間があるなら、第二言語を教えても、「負担が大きく、混乱する」ようなことはないと結論づけられている。

ただ、「初期に多少の(minor)言語発達の遅れや認知力への干渉があるが、後に悪影響はない」という報告はいくつかある。

だが、それも「minor」で、後には消える悪影響で、良い影響のほうが「major」、大きいという。
 (日本語だけでも、おしゃべりが遅い子が、急にあるとき話を始めるというのは、よくあること。「インプットを長くしているから」と研究者たちは考える。同様に、第二言語が周囲にある場合、その子のおしゃべりが遅れることもあるが、少し待つと、堰を切ったように話出すことは、よく観察されている)

幼児期のバイリンガル教育の良い影響として、「違いが大きい言語(英語ー中国語、英語ー日本語など)のバイリンガルは、脳に認知的負荷がかかることで、結果的に認知(推理、判断、記憶などの機能)的に優れる」ことなどが、いわれている。

以上、母語環境がしっかりある場合だが、そうでない場合は注意と努力が必要だ。

たとえば、100%英語環境である英語圏へ一家で移住し、家庭でも親が英語を学ぼうと英語を混ぜがちな場合。

3歳以前に、家庭であまり母語を使わなくなると、悪影響が出るといわれている。
つまり、第二言語も未習得なうえ母語習得も遅れる。
就学しても尾を引き、英語だけでなく各科目の成績も不振で、自尊心が低下。思春期には親子の関係の問題が起こったり、アイデンティティー喪失の危機にさらされることにもなることなど、挙げられている。

現在の日本では移民より、在日のインター校に入れるような場合のほうが身近な例かもしれない。
この場合、子がバイリンガルになる機会ではあるが、親たちは家庭での母語環境について、しっかり心構えをし、母語教育を継続する必要があるだろう。

ところで、「××歳を過ぎたら、英語は上手くならない」という説を聞いたことがあるかもしれない。
「××」には、1〜16歳などいろいろな数字が入る。
いわゆる「臨界期」である。
第二言語習得の臨界期はあるようだが、その年齢に定説はまだない。
言語の要素でも違うようだ。

だが、少なくとも分かっているのは、若いほうがうまくなるということ。

「若さ」は、言語習得の適性がそれだけで高いということだ。
そして、幼児は平等に若い。

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