FAQ:「英語、聞き流すだけで上手くなる?」

英語学習を12歳で始めて、えー、もしかするともう40年過ぎている……。
学習を中断していない点では、誇れるかもしれない。

そんな、「ベテラン学習者」の視点プラス、独学だが「第二言語習得論(Second Language Acquisition/SLA)」からの視点、そしてこちらも長い英語指導の経験から、質問に答えようと思う。

今回は「英語、聞き流すだけで上手くなる?」

「ただ聞いているだけでいいんです」という分かりやすいCMを流す英語教材もあったりして、英語は聞き流すだけでも上手くなるのかと疑問に思う人は少なくないだろう。

わたしの答えは、No。
少なくともあのキャッチコピーを文字通り受け取って、「聞いているだけ」なら、習得はたいがいダメ。

しかし、ある条件が揃えば、Yes。

「ある条件」とは……
以下のとおり。

1.70~80%位分かる内容のものを聞く
2.音声を文字化したもの(台本や本)を、聞く前後または聞きながら読む機会を作る
3.発話の機会を作る、発話の必要性を作る
(石川選手のように海外でインタビューを受けたり、米倉涼子さんみたいにダンス・レッスンを英語で受けたりがいい例)

この質問から、こんな経験を思い出す。

わたしは、人の勧めもあって、FEN(在日アメリカ軍の極東放送)を中高生のころ、よく流しっぱなしにしていた。
ほとんどチンプンカンプン。
話せるようにも、楽に英語が使えるようになどならなかった。
ただ、効果は薄かったとは言え、ゼロというわけではない。

毎日繰り返される天気予報での用語いくつかと、有名人やものなど固有名詞が聞き取れるようになった。
DJやアナウンサーの語りなどから、英語の抑揚や速さ、リズム感覚を知った。

効果の薄かったこれに対して、中学3年のとき、ある英語専門学校の夏期講習で学んだ英会話集1冊まるまる吹き込んだ音源の効果は、抜群だった。

それがナチュラル・スピードであっても、そして「the」や「a」「to」などかすかな音の存在さえ、ほぼ一字一句聞き取れた、と思った。

読んで学んだことが、音源と結びついて、ばっちり頭に刻まれた。
今で言えば「シャドウイング」も効果的にでき、読みや発音に自信がほんの少々ついた。
また、その本に出て来た言い回しや語彙は、その後、かなり正確に再現できるようになった。

こうして、多少相手が言っていることへの勘のようなものが出来始めていたが、発話力は進まないまま高校を卒業した。

だが、すぐに通い始めた英語会話教室で、自由に話す時間が役に立った。

まちがっていても、正さない気楽な雰囲気作りをするアメリカ人教師と、成績表がないという気楽さが、発話を増やしてくれた。

あれこれ話すことを、台本のようにして一週間考え臨んだ。
手帳と和英辞典を常に携え、言いたいことを思いついたら英語に直して書いておいた……。
こんなことを思い出す。

さてこんな経験談を、第二言語習得論的に解説することを試みよう。

○習得は多くの場合、インプットを理解することでおこる(「インプット理論」など)

わからないことだらけの音源を聞いても、習得に繋がらない。
「理解可能なインプット(comprehensible input)が習得の必要条件」とのことが検証されている。(Krashen, S. 1985. The Input Hypothesis:Issues and Implication.London, Longman.など)

○意識的な学習は、聞いているだけでは気付かないことを気付かせて、習得を促進する。

聞きっぱなしではなく、文字化されたものを読むことが習得には大切ということ。

○インプットだけでは、習得がされない。
意志の伝達を第一に据えた、アウトプットの必要性がある。

話す機会、話す必要性を作ることも大切ということ。

参考文献:
『英語教師のための第二言語習得論入門』2012, 白井恭弘著
『How Languages Are Learned, Third Ed.』2009, Lightbown,P.M.and Spada,N.

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